「語順訳と音読の実践」について

英語についてほとんど何も知らない状態で英文に向き合い、語順訳をするという段階、多くは小学高学年生の場合を例にとります。

たとえば小学4、5年生が ‘Rumpelstiltskin’という物語を語順訳します。
総語数1116、リーディング時間8分余り、1分間に137語の速さの教材です。

Once there was a miller who was very poor, but he had a very beautiful daughter.
He was so proud of his daughter that one day he spoke to the King about her.
“Your Majesty, I have a daughter who can spin gold out of ordinary straw.”
このように物語は始まります。

生徒たちは語順訳に入る前に、音声見本を自習として聞いてはいますが、授業では指導者と一緒に全文の読み合わせをします。訳をする直前も個人で音声を聞き、声に出す練習をします。それを終えた後、指導者のチェックを受け、その段階としてのOKをもらってから語順訳を始めます。この学年では単語の意味はほとんどわかっていません。また、言うまでもなく文法の解説(関係代名詞、so‥that構文、助動詞など)はしません。しても頭に入りませんし、文法はこうした文をたくさん訳し、音読してこそわかるものだと考えていますから。

たとえ中学生であったとしても、文法は自分で文法書を開き、該当箇所を自分で読み、読んではまちがえ、まちがえてはまた読むということの繰り返しの中で、生徒自身の成長と共に徐々に理解が進むものです。カリキュラムに沿って、説明から入るという進め方は、残念ながらほとんどの生徒にとっては「頭が真っ白になる」状態が生まれるだけでしょう。「頭が真っ白な時」何も理解できないばかりではなく、心理的な負担感が増すだけと言えます。ルール的にまちがいがあっても、とにかく草野球をした経験があるからこそ、本来のルールに納得がいくものだと思います。それはそうと、現在では生徒は端末を与えられているでしょうから、こうした音読練習はとてもしやすい環境になったと言えます。現実感のない会話などよりずっと積極的に聞き、聞いては音読をやると思います。
英語といえども一つの言葉です。言葉を理解するということは、心の成長がないとできません。生徒それぞれの成長を待ちながら、粘り強く対応することが求められます。

さて、英文にはカナが振られていますので、カナに目がいきますし、いわゆるカタカナ読みです。しかし、自習として繰り返し音声を聞き、音読を繰り返してゆくうちに、少しずつこなれた言い方になっていきます。4−5ヶ月かけて読み、訳し続けると、イントネーションに特徴のある文や短い文などはスラスラと言えるようになり、全文を訳し終えた段階で、役割を分担して劇の練習に入ります。この練習を重ねている間に、曖昧だった箇所も覚えられるようになり、かつ見本に近い発音になっていきます。スラッシュで区切った語句単位での意味把握だとか、読みの練習などを繰り返し行いますから、劇練習に入る頃は物語の内容のほとんどは理解できていますので、動き方のおおよそはすぐに了解できるようになっています。この再表現としての劇活動は中学生でも行うべきでしょう。実感の伴った劇空間ほど、英文がイキイキと感じらるはずです。登場人物になる、ナレーターになるということは、自分自身がその文の語り手、話し手になることですから、英文と自分の一体化がはかれると言えるでしょう。頭の中の物語空間は人によって様々でしょうが、ある場面が全体の中のどういう位置付けかは解ります。場面ができていれば、つまり誰かと向き合っていれば、自分の言葉はその登場人物に向かって言うわけです。短い会話例文のやりとりではなく、一つの物語世界の中の会話は、現実感のある発話体験となります。

ご覧の通り、中学生対象の学習と比べた時、小学生にどうしてこのような難しい英文を選択するのかと、疑問に思われるかもしれません。その答えは簡単で、その物語を楽しめる年齢だから、です。先述しましたが、語句の読み方は書いてあり、意味も与えます。訳の仕方にはルールがありますが、小学生でもわかります。最初こそ少し戸惑うかもしれませんが、すぐになれます。やるべきことはとても単純なのです。単純だから文字通り誰でもできます。
学校の授業のように、ついていける、いけない、というようにはならないのです。

私たちの活動の話を聞いていただける機会を設けていただければ、クラスの様子、劇発表の様子をご覧いただけます。

                                 (つづく)