第1部:コアの「語順訳」(実例1)

前回の記事は 第1部 「ことば」への立場:なぜ物語?なぜ語順訳? です。
コア式語順訳って、どんなもの? そのさわりをご紹介しましょう。

コアの「語順訳」の特徴は、単語は一語も飛ばさず前から訳す

「英語の単語一語一語をきちんと日本語に対応させながら、前から順番に訳す」というやり方です。ある語が前後の語とどんな関係にあるか、あるいは文の中でどのような役割を果たしているかを把握させ、「日本語に訳させていく過程で英語の文の構造をつかませる」という意図で行われる活動です。

「きれいな日本語」は不要

生徒は、英語を語順通りに訳していく中で、無意識のうちに基本的な英語の構造を身につけていきます。
語順訳では直訳調の訳文になるわけですが、それをあえて「正しい日本語」にする必要は一切ありません。「きれいな日本語」にしようとしなくてよいのです。

こなれた日本語では文が見えない

たとえば、What will happen to us ? を、「何が私達に起きるでしょう?」と訳します。
これでは日本語として不自然、ということで「わたしたちいったいどうなってしまうの?」というような「こなれた日本語」にするのは、後からでいいのです。

あえて直訳することに意味がある

「こなれた日本語」に意訳してしまうと、生徒に文の構造や前置詞の持つ意味を把握させることができなくなってしまいます。まずはきちんと直訳することが大切なのです。

これが、コア式!模擬レッスン

テキストは「赤ずきん」です。
複数の生徒がいる場合は、生徒は一語ずつ答えて次の生徒に交代、という形をとります。
生徒はみんな、簡単な約束事が書かれた「語順訳ルール」のプリントを手元に置いています。

赤ずきんテキスト

さあ、始まります。一人の先生(T)に、複数の生徒たち(S)が順番に答えていくグループレッスンです。

シーン1:一緒に読む文はこちら

Long long ago

T:英語、一つ読んで。
S1:long。
T:ここはlong long agoで日本語の意味があるから、そこまで読んで。
S1:long long ago。
T:はい。日本語の意味読んで。
S1:むかしむかし。

T:はい、次の英語、一つ読んで。
S2:there was。
T:日本語は何て書いてある?
S2:いました。
T:そう。前から日本語を続けて読んで。
S2:むかしむかし、いました。

T:はい、次の英語、一つ読んで。
S3:a。
T:「語順訳ルール」のa, anのところを読んでごらん。
S3:(生徒は声に出して、a, anのルールを読む)
T:はい、ここでは「ひとつの」。aの上に「ひとつの」と書いて。(*1)
それから、前から日本語を足していって。
S3:むかしむかし、いました、ひとつの。
T:はい、「語順訳ルール」の動詞のところ読んでみて。
S3:(生徒は声に出して、動詞のルールを読む)
T:遊んだ、食べた、勉強した、そういうのが動詞ね。(*2)
それでは「むかしむかし、いました、ひとつの」の中で、どれが動詞?
S3:いました。
T:そう。そうしたら、動詞は文の・・?
S3:最後(*3) むかしむかし、ひとつの、いました。
T:そう。よくできたね。

*1 :冠詞a, an, theが日本語に訳せる場面では、生徒にそれらを意識させるために訳す。
*2 :動詞とは、どういう種類のものかを、その場その場で意識させる。
*3 :「語順訳ルール」の動詞のところを繰り返し読ませるので、日本語では(述語)動詞は文の最後に訳す、ということが生徒にしみ込んでいく。

 

T:はい、次。
S4:little 小さな。
T:日本語を足して。
S4:むかしむかし、ひとつの、ちいさな、いました。

T:はい、次。
S5:girl 女の子。
むかしむかし、ひとつの、ちいさな、女の子、いました。
T:女の子は何て数える?

S5:ひとりの。(*4)
T:そう。女の子の後に、何か日本語入れてみて。(*5)
S5:むかしむかし、一人の、ちいさな、女の子、、いました。

*4 :名詞「女の子」が出てきた時点で、日本語での自然な数え方に直させる。
*5 :日本語の助詞、が、は、を、に、などは、その都度、生徒に考えさせる。

 

T:はい、次。
S6:who。 whoって何ですか?(*6)
T:ここのwhoは関係代名詞と言って、whoから後ろの文が前のことばを説明しているのね。(*7)
(ここで関係代名詞について説明する)
関係代名詞は接着剤の役割ね。
例えば、「僕が飼っている犬」で犬を説明するのに「僕が飼っている」は日本語では「犬」の前につくよね。
でも英語は、長い説明は後ろから関係代名詞の接着剤でぺタっとつけるの。
関係代名詞は日本語にはならない。
次の単語を読んで、その日本語をa little girlの日本語の前につけてみて。
S6:was loved 愛されていた。
むかしむかし、愛されていた、一人の、小さな、女の子が、いました。

*6 :日本語が載っていない単語は先生に意味を聞かせる。
*7 :生徒のノートに赤ペンで関係代名詞と書いてやり、a little girlに下線を引き、whoから下線に←をつなげてやる。

(こういう風に、全員で順番に読んで前から訳していきます。)

◆シーン2:一緒に読む文はこちら

(It was a special giftまで、語順訳が進みました。その次に前置詞fromが出てくるところです。)

S7:それは、とくべつの、贈りもの、でした。

T:はい、次。
S8:from ~(なになに)からの。(*8)
それは、とくべつの贈りもの、~からの、でした。
T:はい、「語順訳ルール」ではどうだった?
S8:~のつくことば(*9)は前のことばを説明しているので、
それは、~からの、とくべつの、贈りもの、でした。

*8 :前置詞、従属接続詞は、日本語訳に、~(なになに)を含ませた訳語を与え、後ろに何か続くということを意識させる。
*9 :前置詞、従属接続詞などのことを指す。小学生にはこの文法用語は与えない。

T:はい、次。
S9:her 。herって何ですか?
(すでに出てきた単語の意味を覚えることが語順訳の目的ではないので、英単語の上に日本語が書いていない場合は、先生に意味を聞いてかまわない。)
それは、〜からの、とくべつの、贈り物、彼女の、でした。
T:「語順訳ルール」を読んで。
S9:(生徒は語順訳ルールの「~がつく言葉」のところを声に出して読む)
T:「~」には、次のことばを入れて。
S9:彼女の、からの。(*10)
T:そう。はい、前から日本語を足して。
S9:それは、彼女の、からの、とくべつの、贈りもの、でした。

*10 :日本語にしたときのぎこちなさ味わわせるため、敢えて所有格であっても、そこまでで訳させる。生徒の語順訳における経験が増してくると、ここのherは所有格であり、次の名詞までかたまりであることがわかるので、そこまで一気に訳させるようにしていく。

T:はい、次。
S10:grandmother おばあさん。
それは、彼女の、からの・・
T:彼女のおばあさんって、まとまりだよね。「~」に二つともいれて。
S10:それは、彼女の、おばあさん、からの、とくべつの、贈りもの、でした。
T:はい、完成。完成した日本語を書いて。

いかがでしょう、こうして何度もくり返しCDで聞いた英語の「赤ずきん」を、テキストでコア式語順訳して、子どもたちは自然な英語とそのルールを自分の中にしっかりと取り込んでいくのです。

次回の記事は 自然な英語に丸ごと触れる です。

解説「コア式語順訳」もくじ

  1. はじめに(前提と全体)

第1部 「ことば」への立場

  1. 概論:なぜ物語?なぜ語順訳?
  2. 実践編:コアの語順訳(実例1)
  3. 補遺:自然な英語に丸ごと触れる

第2部 「ことばの森」に入る